昨今、コンタクトセンターでは音声自動応答サービスと生成AIを組み合わせたボイスボットの導入が進んでいます。
中でも、よくある質問(FAQ)を生成AIに学習させて、エンドユーザーの質問に柔軟に自動回答するような要件は弊社でも多くお問い合せをいただいています。
ボイスボットの導入後は、問い合わせの種類や量を数値化し、その結果を踏まえてシナリオの修正や改善をしながら運用していくため、「データに基づく分析と改善」は非常に重要です。
FAQボイスボットの改善以外においても、データに基づいた分析と改善は合理的な手法ですが、データの見方を誤ると、本来の課題を見落としたり、実情とは真逆の結論にたどりついてしまう可能性もあるのです。
たとえば、「問い合わせが多い=効果的に対応できている」と決めつけてしまうと、むしろ根本的な原因が放置され、結果的に顧客満足度の低下を招く恐れもあるでしょう。
本記事では、こうした見た目の数値に惑わされないために重要となる“生存者バイアス”という思考の罠について取り上げます。
特に、FAQやボイスボットのログデータを「うまくいっている証拠」と早合点してしまうリスクや、その回避策を考察します。
データを取り入れること自体は不可欠ですが、正しい分析の視点をもつことで、より実践的かつ効果的な改善へと導くことができるはずです。
まずは「生存者バイアス」について簡単に解説します。
生存者バイアスとは、結果的に生き残った事例や成功例だけに注目し、失敗例や脱落した事例を見落とすことで誤った結論を導いてしまう思考パターンのことです。
有名な例としては、第二次世界大戦中の爆撃機の話があります。
このような図を見たことがある方も多いのではないでしょうか。
この図では、生還した機体に残っていた弾痕を赤い点で示しています。
統計学者のエイブラハム・ウォールドは、敵の射撃による爆撃機の損失を最小限に抑える方法を検討するというプロジェクトに取り組んでいました。
海軍分析センターの研究者は、戦場から帰還した爆撃機の被弾箇所を分析し、最も損傷が多かった翼や胴体の装甲を強化することを提案しました。
つまり、弾がよく当たっている箇所を強化しようと考えたわけです。
これに対してウォールド博士は、弾痕が残っていない箇所に装甲を施すよう提案しました。
一見すると、「弾がよく当たっている箇所を強化しよう」という考えは合理的に思えますが、実はこの考えでは「帰還できた機体」の被弾箇所しか見ていません。
帰還できた機体の弾痕だけを分析して、弾がよく当たっている箇所を強化するという考えでは、致命傷を受けて戻れなかった機体の情報を見落としています。
一方、ウォールド博士は帰還できなかった機体も考慮し、本当に装甲を強化すべきなのは被弾したら帰ってこられなかった部分──つまり、被弾が少なかった「エンジンや操縦席」などの重要部分であることを指摘しました。
このエピソードが示すように、うまくいっているように見えるところばかりに目を向けると、隠れた問題に気づけなくなることがあります。
FAQやボイスボットの運用を行うと、問い合わせ数が多いカテゴリを見て「多くのユーザーに対応している=うまくいっている」と判断しがちですが、「問い合わせが多い=成功」と決めつけてしまうと本質的な課題が埋もれたままになる可能性があります。
たとえば、ある企業では「Aカテゴリ」の問い合わせが全体の30%を占め、ボイスボットによる自動応対率も高かったため「対策は十分」と見なされていました。
ところが、実際にはAカテゴリの問い合わせが多く発生していたのは、商品ページの説明が曖昧だったり、FAQページへのリンクがわかりにくかったためで、ユーザーがWeb上で自己解決ができていなかったという根本的な課題が隠れていました。
問い合わせが多いということは、多くの人が同じ疑問や不便を感じている証拠ともいえます。
目に見える自動回答の対応件数だけを確認して安心してしまうのではなく、なぜその問い合わせが頻発しているのかを突き止める視点が重要です。
たとえば、FAQのログからよく問い合せが来ているカテゴリを割り出し、そのカテゴリのWebページのアナリティクスを分析することで、ユーザーがどの段階で困っているかが見えてくるかもしれません。
数字の裏にある顧客の行動や心理を深掘りし、案内の不足やUI上の問題など、真の課題を洗い出すことができます。
FAQやボイスボットのログには、問い合わせが多いカテゴリだけでなく、「問い合わせがほとんどないカテゴリ」の情報にも注意が必要です。
実は、そのカテゴリに関する疑問があっても、ユーザーが問い合わせる前に諦めてしまっていたり、別のチャネル(Webサイトやパッケージ情報など)ですでに解決していたりと、見えにくい課題が潜んでいる可能性があるのです。
こうした盲点を補うには、カスタマージャーニー全体を俯瞰して、問い合わせ発生前後の流れをチェックすることが重要です。
たとえば、問い合わせが多発しているカテゴリを洗い直して問題の発生点を特定し、FAQやボイスボットのシナリオを再構成、さらにWebサイトの表示や誘導方法を改善したうえで効果検証を行う――という一連のサイクルを回す必要があります。ログ分析だけに頼らず、ユーザーの行動を包括的に捉える視点が欠かせません。
FAQやボイスボットのログを分析するだけではわからない課題も多く存在します。そこで「見えないデータ」を意識するアプローチが鍵になります。
たとえば、ボイスボットではなくWebページのアナリティクスを確認したり、ユーザーに対してアンケートやユーザーテストを行うことで数字に表れにくい細かな不満や利用状況を把握するといった手法です。実際のユーザーの声を聞くことで、思い込みや予想外の問題が発覚することもあります。
また、短期的にFAQを追加・修正するのではなく、根本的なUI・UXの見直しやマニュアル整備にも取り組むことが重要です。
誤った案内や分かりにくい案内が増えれば、問い合わせの混乱が深刻化するおそれがあります。製品やサービス全体を俯瞰して、どのタイミングで何に困るのかを把握し、適切な解決手段を提供する視点が必要です。
さらに、この改善プロセスは一度きりでは終わりません。計画 → 実行 → 検証 → 改善のPDCAサイクルを回しながら、ログ分析と顧客の声を結びつけて継続的な見直しを進めましょう。たとえば対策後も、定期的に問い合わせデータやアンケートを確認し、新たな問題が出ていないかをチェックします。
数字の多寡だけで判断せず、「見えない部分」を探る意識と継続的な改善を組み合わせることで、誤った結論を防ぐことができます。
データを活用する際には、ユーザーが本当に求める情報やサポートを得られているかを常に念頭に置くことが不可欠です。
弊社セプテットでは、電話問い合わせの受付業務を自動化するクラウド型IVR VoiceGearを提供しています。
生成AIと連携したボイスボットのご提供も可能です。
導入後の運用サポートも含めたご提案が可能ですので、電話チャネルのコスト削減や効率化をご検討の際はお気軽にお問い合せください。
貴社の電話受付業務の改善やCS向上をVoiceGearがお手伝いします。
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